115 名前:おさかなくわえた名無しさん[] 投稿日:02/01/18 22:58 ID:UThgK/ur
俺の父は古いタイプの人間で、一度も俺の前で涙を見せた
ことがなかった。

俺が生まれたのは長屋で借家で木造の平屋だった。その頃から
親父は黙々と会社勤めを続け、俺が目が覚める頃には出勤、寝た
後に帰宅という日々が続いていた。母も内職のミシン作業をして
いたので、小さい頃に親と旅行したり、遊んだ記憶は全く無い。

俺が小学生になると同時に引越し、祖父の家で同居となった。
古い木造家屋だったが一軒家であり、また二階建てでもあった。
あいかわらず父は黙々と働き、母は近所にパート。俺と弟はカギ
っ子だった。

俺が中学生の時、父は脱サラして古民具の行商になり、ようやく
貯まったお金で家を新築した。祖父は父の兄の所へ引っ越したの
で、名実ともに父と母はマイホームを手にした。ローンがあるのに
本当に嬉しそうだった。

大学卒業した俺が隣県で働き出して3年目の今年。友人から携帯で
「お前の家が燃えている」と言われた。何とか父に連絡すると「家
族は無事だから、明日帰ってこればいい」と言う。
翌日、俺の家は全焼していた。母は泣きそうな顔で俺を出迎えたが
父は苦笑していた。

火事の後片付けに駆けつけた親戚、知り合いを前に父は事情を説明
した。原因は放火だが、放火と報告するとしばらく現場をそのままに
しておかなければならないこと。最悪、半年もの間、何もできない
こと。それを避けるために警察と消防には自分のタバコの不始末とし
て頼んだこと。
「悔しいけど」と言った父の両手は堅く握られていたけど、泣いてい
た。母も泣いた。二人の顔を見たら、二人の数十年の努力が思い出さ
れて俺も泣いた。泣きながら4トントラックに燃えた柱や焼けた写真
やら壊れた窓ガラスやらをみんなで積み込んだ。

一ヵ月後、帰省したら家の改築工事が終わってた。「前よりいいや
ろ」と自慢げに話す両親を見て、また泣きそうになった。







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