714 名前: 卵の名無しさん 投稿日: 2010/10/25(月) 11:44:51 ID:O6/UrGGy0
80歳位の年配の紳士が指の抜糸をしにやってきた。
彼は9時に約束があって急いでいたので私はすぐに診察することにした。
傷はほとんど治癒状態で私は抜糸をすることにした。
傷の処置をしながら、なぜそんなにお急ぎなのですか、と訊いた。
老紳士は、老人ホームの妻といっしょに朝食を摂ることになっているんです、と答えた。
彼の妻の健康を尋ねると、認知症で老人ホームに少し前から入居しているんです、と言った。
それでは遅れると奥さんが困りますね、と問うと、
老紳士は、妻は数年来もう私のことが分からないのです、と答えた。
「もうあなたが分からないというのに、あなたは毎朝奥さんのところに行かれるんですか?」
紳士は私の手を軽くたたいて微笑んで言った。

「妻はもう私のことが分からないですが、私はまだ妻のことが分かるんです」


認知症世界の歩き方
筧裕介
ライツ社
2021-09-15







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