387 名前:おさかなくわえた名無しさん[] 投稿日:2006/02/21(火) 23:07:25 ID:sBhqYsZW [1/4]
それはあまりに突然だった。

すっきり晴れ上がった空、透き通ったそよ風、山々は緑萌え、北海道の初夏を感じさせる心地よい日。
そんな日に犬のケンちゃんは死んでしまった。
実家に住む姉からメールで連絡を受け、僕は目を疑った。
「確かに高齢だし、最近衰えてはいたけれど、ほんの3日前にはまだ大丈夫だったのに…」
大学の研究室から自宅へ戻った僕は、取る物も取らずにバイクに跨り、200kmほど離れた実家へ向かった。


388 名前:おさかなくわえた名無しさん[] 投稿日:2006/02/21(火) 23:09:15 ID:sBhqYsZW [2/4]
僕は幼い頃、友達のいない、泣き虫な少年だった。
そんな僕の元へ彼が来たのは、今から15年前、僕が小学校2年の時だった。
札幌市の動物管理センターで行われた、子犬の里親探しをする小さなイベント。そこで僕らは知り合った。
モコモコしていて、丸っこくて、小さい体にアンバランスな太い足。
それが生後3ヶ月足らずの彼の第一印象だった。

彼が来てからというもの、彼は僕の絶好の遊び相手になった。
庭を駆け回ったり、川原を散歩したり、冬には一緒にかまくらを作った。
僕が積み上げた雪の塊に、彼が穴を掘って作る。そういえば冬の散歩の時に犬ゾリの真似事をしたこともあった。
プラスチックの子供用ソリを胴輪に結び、掛け声とともに走り出す。
…その時は勢いが良すぎてスタート直後に僕は後ろへ転げ落ちてしまったけれど。


389 名前:おさかなくわえた名無しさん[] 投稿日:2006/02/21(火) 23:09:58 ID:sBhqYsZW [3/4]
それまでは学校でいじめられても誰も慰めてくれなかったけれど、ケンちゃんは僕を慰めてくれた。
学校で喧嘩をして、一人泣きながら帰ってきたあの日の夕方に出迎えてくれたのもケンちゃんだった。

思い出したら切りが無いほど、僕らはいつも一緒だった。僕はケンちゃんと一緒に大きくなった。
辛い時も、悲しい時も、嬉しい時も、楽しい時も、いつもいつも僕の傍らにケンちゃんがいた。
のび太君とドラえもんの関係のような、そんな間柄だった。

実家へ着くと、彼はいつも通り居間のソファの上で寝ていた。
ただいつもと違うのは、息をしていないということ。
心臓が動いていないということ。

そして、もう二度と尻尾を振ってくれないということ。

3日前は尻尾を振って出迎えてくれたのに。
寝ているみたいな顔をしているのに。
まだほんのり温かいのに…。


390 名前:おさかなくわえた名無しさん[] 投稿日:2006/02/21(火) 23:10:34 ID:sBhqYsZW [4/4]
心にぽっかりと穴があいたような、不思議な感覚。

ケンちゃん、キミがいなくなるのはとっても寂しいけれど、今まで一緒にいてくれて本当にありがとう。そして、お疲れ様でした。

ケンちゃんのお陰で僕は泣き虫じゃなくなったよ。
だから、ケンちゃんは死んじゃったけれど、泣いたりはしないよ。








泣かないってば。