455 名前:おさかなくわえた名無しさん[sage] 投稿日:2010/08/12(木) 17:18:56 ID:ZY9gnQpI
 大隊本部に、ベテランのカナダ軍准尉がいた。

 T2尉が、日常業務を果たす中で、調整したり、交渉したりする直接の相手だった。厳格で、まさに叩き上げのベテランらしい雰囲気の人だったという。頑固で、融通が利かず、時には、T2尉の要求にまったく応じないこともあった。

 もちろん、軍隊は階級社会である。老准尉は、若いT2尉(中尉)に対して、決して礼儀を失するようなことはなかった。しかし、およそ、親しむような態度も見せず、いつもある距離を置いているようにみえた。

 いよいよT2尉たちの帰国が近づいたある日、老准尉の事務所に打ち合わせに行った。いつものように、事務的な口調で、淡々と話し合いをした。用務が終わり、T2尉が席を立とうとすると、准尉は言った。

「T中尉殿、コーヒーはいかがですか?」と。初めてのことだった。いささか戸惑ったT2尉が、あわてて椅子に座り直すと、准尉はカップを渡してくれた。

 あなた方の仕事ぶりをずっと見てきた。どこの国の人間であろうと、他人のために一生懸命尽くそうとする姿勢には尊敬を惜しまない。あなたがた日本人はほんとうに誠実だった。

 私はあなたのような若い将校と会って、つくづく日本軍をうらやましく思った。立場や、それぞれの事情があって、ご期待に添うような対応は、いつでもできたというわけではなかったが、そのことはどうか許して欲しい。

 また、いつか、いっしょにあなた方と仕事をできたら幸せだと思う。

 とつとつと厳(いか)つい顔の准尉は語った。

 准尉は、立ち上がってT2尉のためにドアを開けた。踵をつけ、敬礼をして送り出してくれた。自分の父親のような年齢の准尉の姿は、涙で、にじんでぼやけて見えた。

 T1尉には、小さいお子さんがいる。「子どもに胸が張れることができましたかね」と、いくぶん照れながら話をしめくくってくれた。