641 名前:二重跳び[] 投稿日:04/09/04 23:04 ID:LYOjLF9S
20年以上も昔のこと。
オレの家はプチ貧乏で、小4の時の小遣いは月320円だった。320円というのは、
当時のてんとう虫コミックの単行本の価格で、漫画が好きだったオレと母親との
交渉で決定した金額だった。で、毎月1冊漫画を買うのがささやかな楽しみだったのだ。

冬のこと。
体育の授業になわとびが加わった。自分はこのなわとびの授業が毎年大嫌いだった。
苦手だったからではない。クラスメイトがビニール製のスケルトン調の縄を使ってる
のに対し、貧乏家のオレは、オヤジがどこからか拾ってきた麻のヒモで作った縄
でなわとびをやっていたのだ。クラスメイトは気をつかってか、そのことには
一言も触れなかったが、オレにはわかるんだよ、偏見の目が。
そしてある日決心した。今度の小遣いは漫画を買わず、みんなと同じかき氷シロップ色の
きれいななわとびを買おうと。


642 名前:二重跳び[] 投稿日:04/09/04(土) 23:13 ID:LYOjLF9S [2/6]
買いました。ブルーハワイ色のビニールなわとび。
体育の授業はもちろん、休み時間もみんなに混じってなわとびなわとび。
なわとびがこんなに楽しいなんて。


643 名前:二重跳び[] 投稿日:04/09/04(土) 23:23 ID:LYOjLF9S [3/6]
その数日後、午後の授業中に窓際席のオレは運動場に目をやった。
午前に授業が終わった一年生グループがなわとびをやっている。その中には
オレの弟がいた。泣いているようだ。
どうやら友達に麻ロープの縄をバカにされているらしい。顔を真っ赤にし、
涙が頬をつたわっているのがここからでも確認できる。


644 名前:二重跳び[] 投稿日:04/09/04(土) 23:32 ID:LYOjLF9S [4/6]
家に帰ると弟が部屋で漫画を読んでいた。オレが毎月買ってる漫画だ。
一年生のやつは、まだ小遣いをもらってなくて、おれの買った漫画で喜びを
満たしてる身分だ。
オレは彼に言った。明日授業が終わったら、オレの授業が終わるまで待ってろと。


645 名前:二重跳び[] 投稿日:04/09/04(土) 23:39 ID:LYOjLF9S [5/6]
授業後、下駄箱で待ってた弟を連れてなわとび紐を買いに行った。
好きな色を選べと言ったら、兄ちゃんが青だから、この緑のやつにすると言った。
メロンソーダ色だ。


646 名前:二重跳び[] 投稿日:04/09/04(土) 23:47 ID:LYOjLF9S [6/6]
翌日から、校庭で友達と元気になわとびをやっている弟をたびたび目撃した。
ああ、よかったなあと思い、歳をとるにつれてそんな昔の出来事は自分の記憶
から一切消えた。
そして24年後の現在。


648 名前:二重跳び[] 投稿日:04/09/05(日) 00:01 ID:DsqlII2Q [1/3]
貧乏だったオレは高校卒業後、夢も希望もなくフリーターになり、職を転々とし、
現在小さな会社に勤めている。弟は世間では一流とされる大学を出て、東証一部の
会社に入り、ひと昔前のトレンディドラマに出てくるようなマンションに住み、
何ひとつ不憫のない生活をしていた。自分とは正反対の人生を歩む弟をうっとうしく
思い、おれは遠ざかっていたし、会うのも避けていた。そんな弟が突然会社を
辞め、大学院に進学したのは2年前。そして卒業を控えた去年の12月のことだ。


649 名前:二重跳び[] 投稿日:04/09/05(日) 00:18 ID:DsqlII2Q [2/3]
研究を続けるために大学院に残りたいという弟。かっては都心のカコイイ部屋に
住んでいたヤツも現在では大学院近くの6畳一間だ。奨学金を得る書類に保証人
の印鑑がいるということで、オレを呼び出したのだった。
パソコン、プリンタ、分厚い資料の山、いかにも研究者の部屋といったカンジだ。
ダンボールの中に電化製品のACアダプターコードがからまり入っている。
好きにすればいいじゃんと言い、印鑑を押し、部屋を出ようとした時、ダンボール
の中に一本の緑のなわとびが見えた。小学生とかが使うあのなわとびが。
その時は何も気がつかなかった。帰る電車の中で、上記の昔の記憶がよみがえった。


650 名前:二重跳び[] 投稿日:04/09/05(日) 00:26 ID:DsqlII2Q [3/3]
弟があの時のなわとびを今も大事にしていたのが驚きだった。
正反対な人生を歩んでいたとはいえ、今もこうしてダメ兄貴を頼っているのかと
おもうと、うれしくなり、電車内とはいえ頬に熱い涙が伝ってきた。