891 名前:大人の名無しさん[sage] 投稿日:03/01/31(金) 23:37 ID:OZvBY23W [1/2]
10年会っていなかった父親に会ってきた。
父は69歳。胃癌だ。一昨日手術した。6時間の大手術だった。
気付いた時にはもうガン細胞はリンパ節に転移し、全身に散っていた。
手術が成功しても半年から1年の延命らしい。

父は現役で働いていた頃、給料のほとんどをギャンブルと酒に注ぎ込み
家族を殴るのが趣味のような人物で、私は上京してから
冠婚葬祭など特別なことがない限り、実家には戻っていなかった。
久しぶりに見た父親は、しょぼくれた小さい老人で
声もかすれて話をよく聞き取れない。

待ち時間、母と弟二人で待合室のテレビを黙って見た。
手術を受ける他の患者の家族が、途中入れ替わり立ち代りする。
皆、ほとんど無言だ。
食道癌の手術を受ける女子大生の娘を
一人でぽつんと待つ女性とは当たり障りのない話を少しした。

手術が終わり、ほんの少し面会を許された父親は
呼吸をするのがやっとの状態だった。
酸素を吸入し、傍らには点滴の袋が3つ下がり
口と腹から伸びている、胃に溜まった血を抜くためのチューブからは
赤いものが少しずつ抜けていく。
「よく頑張ったねえ」「お疲れ様」のあと
どう言葉をつなげていいのか分からず
「一番大変なのはこれで終わったから」と言ったが
実際そうかはわからない。むしろそうじゃないかもしれない。


892 名前:大人の名無しさん[sage] 投稿日:03/01/31(金) 23:39 ID:OZvBY23W [2/2]
その後、家族でお好み焼屋に入って昔話をした。
疲れとビールの酔いもあってか、内容は父の過去の行状に対する愚痴ばかり。
とっぷり夜も更けた頃、ひどく冷える県道を歩いて家に戻った。
田舎のことで街灯もあまりなく、星が綺麗に見える。
すると後ろから鼻をすする音がいくつも聞こえてきた。母親らしい。
それは少しずつ、しゃくりあげるのを抑えるような調子へと変っていった。
あえて振り返ることはしないで、そのまま家路を急いだ。
隣を歩く弟はうつむいていた。

昨日、家に戻ってから、何も手につかない。
かといって黙って寝転がっていても
何かに気持ちが急かされて、じっとしていられない。
涙は出ない。悲しいのかそうでないのかも分からない。
手術前のあの時、もう少し耳を凝らして
父が何を喋ったのか、聞き取っていたら良かったような気がする。

でも何もかもまだ、これから。